令和3年6月1日から、青果店や産直市場、直売所(注)も含む、すべての食品関係の営業者は
HACCPに沿った衛生管理
をしなければならなくなりました。
※HACCP(ハサップ)
(注)直売所の中で、農家が自分で生産・収穫したものだけを、そのまま販売する場合は除きます。ただし、この場合でもHACCPに沿った衛生管理をすることは推奨されております。
HACCPに沿った衛生管理は、次の2つの項目に分けられます。
① 一般衛生管理
② 重要管理のポイント
上の2項目の内、調理や製造に関わらない青果店や直売所などは、①の一般衛生管理の部分について計画と実施、記録が求められます。
この一般衛生管理は、食品衛生法施行規則によって、下記の14の観点からなる基準が決められています。
青果店や産直市場は「8 検食の実施」は該当しませんが、残りの13の基準について、事業者として実施計画を立てることになります。
それぞれの業界団体等がまとめた手引書が厚生労働省のサイトに掲載されています。
御自身が食品衛生法の許可業者や届け出義務のない農家の方も、取引先の業種(卸売業、青果店、産直市場、漬物製造業、飲食店、総菜業など)の手引書を御覧になられることをお勧めいたします。
取引先の食品関係事業者が「法律で、どのような衛生管理を求められているのか」ということを知っておくことは、円満な関係を継続していくために大切な事だろうと、私は思います。
また、この一般衛生管理の基準は、
JGAPの管理点や適合基準に通じるところが多々あります。
1 食品衛生責任者等の選任
保健所に営業許可申請や営業の届出をする場合に、必ず食品衛生責任者を指定している必要があります。
医師や調理師、栄養士などの資格がない場合には、保健所が指定する講習を受講することで、食品衛生責任者になることができます。
食品衛生責任者は施設ごとに1名以上選ぶことが原則です。
食品衛生責任者は、その施設での衛生管理を担う重要な役割があります。
2 施設の衛生管理
〇施設の中だけでなく、施設の周辺の清掃も求められています。これは、施設内にねずみや昆虫などが侵入しないようにするためです。
〇窓や出入口の扉は、原則として開放しないようにします。それが難しい場合には、ネズミや昆虫、ホコリなどが施設内に入らないような工夫が求められます。
〇食品等を保管する所は、不必要な物をできるだけ持ち込まない・放置しないことが大切です。
例えば、空の段ボールが積まれたままになっていませんか?
〇排水溝の清掃も忘れずに!
3 設備等の衛生管理
〇包丁やまな板などの食品にふれる器材に限らず、調理や加工、貯蔵、運搬に関わるすべての機器の衛生管理を求められます。
〇洗剤、消毒液、その他の薬品類は、うっかり食品などにつかないように保管しましょう。
〇 ホチキスやはさみ、磁石、その他、仕事で使う様々な物は、決められた場所に保管されていますか?
★ 手を洗う場所には、手洗用石鹸やペーパータオル、手指の消毒液が準備されていること。ペーパータオルを捨てるゴミ箱もあると良いと思います(できれば、フットペダルで蓋が開閉するタイプ)。
手洗い場の基準は、ノロウイルス対策として考えると良いと思います。また、これは新型コロナ感染対策にもつながります。
4 使用水等の管理
調理等に使用する水や氷にかかわる管理基準です。
井戸水などの水道水以外の水を使用する場合には、検査等が求められます。
特に、災害の後の営業再開準備に当たっては、注意が必要です。
5 ねずみ及び昆虫対策
対策の目的は次の2点です。
- ねずみ及び昆虫の繁殖場所を排除
- ねずみ及び昆虫の施設内への侵入を防止
実際に求められる取組みは、
原則は、一年に二回以上、ねずみ及び昆虫の駆除作業を実施し、その実施記録を一年間保存することです。
ただし、上記の2点の目的を達成するための、有効な手段があるならば、それを実施することもできるようです。
でも、単に「ネズミ捕り器を置いた」というだけでは「有効な手段」とは言えません。
また、「自分で殺虫剤をまく」ということも要注意です。殺虫剤が食品だけでなく食器等にもかからないようにしなければなりませんし、もし「殺虫剤がかかったかも」という場合には、疑わしいものはすべて洗浄する必要があります。
お金はかかるけれども、専門業者に依頼した方が安全かもしれません。
ネズミも、単なるクマネズミではなく「スーパーラット」と呼ばれるやっかいなネズミも増えているようなので、
専門業者に依頼する方が安心だと思います。
専門業者に依頼する場合には、「防除作業監督者」や「防除作業従事者」、「建築物環境衛生管理技術者」、「ペストコントロール技術者」等の資格を持っている方だとさらに安心です。
なお、以下は私の考えです。
気候変動に伴い、これまでお店の地域では見られなかったような動物や昆虫が発生する可能性は大きいと思われます。
ですから、「この辺はそんな注意しなくても大丈夫」という考えは捨てた方が良い。
6 廃棄物及び排水の取扱い
廃棄物の保管及びその廃棄の方法について、手順を定めます。
廃棄物の保管(ゴミ箱の場所、空き段ボール等の置き場所)は、食品等を保管保存したり調理する場所とは分けることを、原則として求められます。
7 食品又は添加物を取り扱う者の衛生管理
働く人たちの毎日の健康チェックは欠かせません。
腹痛や下痢、吐き気、発熱等の症状がある人への対応も、あらかじめ決めておいた方がよいでしょう。(ノロウイルス等の感染症対策)
手指に傷がある場合も、「食品にふれない」とか「耐水性の絆創膏を貼ったうえで、使い捨ての調理用の手袋をするなどの対策をとります。(黄色ブドウ球菌対策)
健康管理と共に重要なのは、手指の手洗い
です。
手洗の方法については、新型コロナ感染症対策としてテレビやインターネットでも繰り返し報じられているので問題はないかと思います。
課題は、「いつ手洗いをするのか」です。
トイレの後、だけでは食品を扱う人の手洗いとしては足りません。
手洗のタイミングについても、施設ごとにルールを作った方がよいです。
その他に従業員の衛生管理で大切な項目をあげておきます。
- 服装(マスク、帽子、その他の作業着)
- 履物
- 指輪・ピアスなどの装飾品(異物混入、手洗の徹底が不十分になるリスク)
- 頭髪
- 食事をする場所、喫煙場所
8 検食の実施
同一の食品を一回三百食又は一日七百五十食以上調理し、提供する営業者が、原材料及び調理済の食品ごとに適切な期間保存することを検食と言います。
9 情報の提供
消費者が安全に喫食するために必要な情報を消費者に提供するよう努めます。
特に、アレルゲンについては重要な情報になります。
農産物や水産物などの生鮮食品の場合、
「名称」と「原産地」の表示が義務になります。
※食品表示法
表示に関しては以下のような様々な法律による規制がありますので、疑問点などは専門家にお問合せになられた方がよいかと思います。
- 食品表示法
- 食品衛生法
- JAS法
- 健康増進法
- 景品表示法
- 計量法
- 牛トレーサビリーティー法
- 米トレーサビリティー法
- 酒類業組合法
- 医薬品医療機器等法
※ 食品に異物が混入していたり、腐敗していたりするなどで回収をする場合には、保健所に連絡をしなければならないこともあります。
10 回収・廃棄
食品の回収や廃棄に関わるルールや手順を施設ごとに定めて、従業員に徹底します。
回収や廃棄まではいかないような、ささいな「お客様からの苦情」も、記録し保存しておきます。
定期的に記録を見直すことで、大きな事故の防止につながるだけでなく、商品の品質やお店のサービスの向上に役立つはずです。
11 運搬
運搬に関わる注意点は、大きく分けて3点です。
〇運搬に使うコンテナ、車の荷台等を清潔に保つ。
〇食品が、チリやホコリ、排気ガスがかからないように、昆虫等がつかないように気を付けること。
〇運搬中の温度・湿度、湿気の管理に注意すること。
私が、たま~に見かける残念な光景。
それは、飲食店の出入口の外に、野菜か何かが入っている段ボールが置いてあること。
おそらく、配達の人が来た時にお店が閉まっていたのだと思います。
食品の衛生管理の観点からは、大変残念な行為です。
取引に係る文書の作成
こうしたことを防止する上でも、また、「9 情報提供」や「10 回収・廃棄」の項目にも関連する点でも、
施設と取引先の間で、取引条件や搬入方法、商品の情報提供などに関するルールを作成し、文書化しておくことをお勧めします。
仕入時に伝票をつけることも良いと思います。あるいは既に伝票の受け渡しはしておられるかもしれません。
大切なことは、その商品の衛生管理に関わる情報の受け渡しが、その伝票で足りるか?ということです。
例えば、野菜を仕入れたときの伝票にロット番号等が書かれていて、それをたどって行けば、その野菜の生産者に行きつく。
生産者は、その番号から
どの圃場で、いつ、誰が収穫したのかがわかり、
さらに、種子や苗、使用した肥料や農薬の種類や時期・量などの記録をたどることができる。
これって、農業の生産行程管理であるGAPが求めていることなんです!
12 販売
この項目で求められているのは、まず「売れ残らないようにしてくださいね」ということ。
今話題の、食品ロスをなくすための取組みだと思います。
もう一つが、新型コロナ感染の広がりに合わせて、よく見られるようになった光景にも関わること。
イベントの時にもみられることですが、
店の外にテーブルを置いて弁当や総菜を販売している光景。
この時に、弁当や総菜等の温度管理です。
食品を保存する際の危険温度帯にはくれぐれもご注意ください。
13 教育訓練
常勤の従業員だけでなく、パートやアルバイトとして働く人々にも、衛生管理に関する教育や訓練を、計画的に行いましょう。
14 その他
以上のような、衛生管理に関して、計画を立て、その実施状況について記録をとり、文書化して保存します。
保存期間は、1年以上。
食品の保存期間に合わせて延長します。
実施記録は、月に1回とか、少なくとも年に1回は読みなおし、振り返るようにします。
その結果、衛生管理の計画に変更すべき点があれば、どんどん見直して、バージョンアップしていきましょう。
この、
計画 → 実施 → 記録 → 見直し → 計画 →
というサイクルを実行することが、改正された食品衛生法で強く求められていることです。
ですから、最初の計画は完成形ではありません。
徐々に改善されていく初期バージョンだということです。